結婚白書Ⅲ 【風花】


その夜 久しぶりに家族全員で食卓を囲んだ


父も酒の相手ができて 今夜は機嫌よく酒を口にしていた



「明後日はだいちゃんを預かるから 二人ともゆっくりしてきていいわよ

でも 和音ちゃんのところはいいわねぇ 皆さん結婚されて 

ご両親もこれで安心でしょう それに引き替え ウチはねぇ」



母がこっちを見て 何か言いたそうだった



「朋ちゃん この前の方とはどうなってるの? 

一度家に連れていらっしゃい

同じ職場の方なんでしょう?」



母の言葉に父の表情が変わった



「そうなのか? どこの部署だ」


「それは聞かなかったけど 確か 遠野さんとおっしゃったわね」



それまで話を聞いていた兄貴が あっ と声をあげた



「遠野さんって 空港で紹介してもらった課長だろう? 

朋代 あの人と付き合ってたのか」



和音さんが複雑な顔をして聞いている



「朋代 どういう事だ!」



いつも温厚な父が怒りをあらわにしていた



「私……帰る」



立ち上がった私の背中に 父が強い声を投げかける



「待ちなさい 課長が相手だって お前 わかってるのか!」



母も兄貴も 父の剣幕に驚いていたが やがて兄が感づいたように言い出した



「まさか 彼は結婚してるのか!」


「朋ちゃん座って 高志さんも少し落ち着いて」



和音さんが私を抱きかかえるように引き止める



「和音 知ってたのか どうして黙ってた!」




兄の大きな声に大輝が泣き出したが 誰も そこから動けなくなっていた




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