結婚白書Ⅲ 【風花】


明日の夕方の飛行機で東京へ帰るのだという



「賢吾を預けたままだし 明後日は他の仕事が入ってるの 

私も結構忙しいのよ」



寝室に布団を敷きながら しきりに仕事の話をしている

この布団だって 自分用に用意した物だったが 使われるのは今日で2度目



「フローリングの床は寝にくいだろう ベッドを使っていいよ」


「本当? ありがとう でも……今夜はこっちがいい」



私の横にするりと滑り込んできた



「ねぇ この前の話 まさか本気じゃないわよね

離婚なんて冗談でしょう? 寂しくて私の気を惹いたのよね?」



そう言いながら 背中から私の胸に手を回してきた

私が妻の手を押し戻すと



「まさか 浮気なんて事ないわよねぇ

ある人に言われたの 単身赴任で寂しいと 近場の女性に手を出すって」



朋代を汚された気がして 怒りで体が震えてきた



「君はそんなことを言いに ここまで来たのか!」



私の声に驚いたのか 咄嗟に身を引いた



「そんな 大声出さなくたって 一般論よ そんなにムキにならないで

私だって 貴方がそんなことするなんて思ってないわ

ちょっと気になったから言ってみただけ」



妻の手がまた胸元に伸びてきた



「貴方がそんなこと出来ないってこと よく知ってるわ 

でもね 離れてると不安になるのよ」



粘りつくような声が耳元に伝わる



「離れたのは君じゃないか」


「それはそうだけど だって賢吾の学校の事や仕事もあるし

ねぇ 私の気持ちも考えて……せっかく来たのに ケンカはやめましょうよ」



妻が私の耳を触り 足を絡めてきた

それは 彼女のいつもの合図だった

積極的な彼女も さすがに抱いて欲しいとは言いにくいのか

いつしか 私の耳をもて遊ぶのが その合図になっていた




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