結婚白書Ⅲ 【風花】


後片付けをしながら 夕紀さんが話してくれた事



「私 仲村と結婚する前に 他の人と婚約してたのよ

でもね 仲村に出会って 彼に惹かれていったの 

その想いはどうしようもなくて ずいぶん悩んだわ

私だけの想いならそのまま 婚約者と結婚していたかも……

でもね 彼も同じ思いだとわかったの」



仲村課長と気持ちを確かめあい それぞれの親 婚約者 職場の人

”いろんな人に頭を下げたのよ” と懐かしい目をしながら話してくれた



「お互い気持ちが通じ合っているのなら大丈夫 遠野さんを信じることよ」



夕紀さんの言葉が染み込んでくる


3時間ほどお邪魔したが 夕紀さんは 遠野さんや仲村課長の前では

私達のことには触れず ただ 温かい笑みをたたえているだけだった





「夕紀さんと どんな話をしたの?」



帰りの車の中で彼が聞いてきた



「遠野さんを信じなさいって 二人の気持ちが通じ合っているのなら 

大丈夫だからって

夕紀さんと仲村課長とのこともお聞きして……」


「そう 聞いたんだ 夕紀さんも 朋代に会って話をしたかったんだろうね」


「えぇ 今日お会いできて良かった」




家族にも反対され 理解者などいないと思っていた

私達の関係は 決して褒められることではないが 

仲村課長と夕紀さんが見守ってくれている 

それががわかっただけでも嬉しかった




「夜風に当たりたいな」


「大丈夫? 気分が悪いのなら止まるけど」


「いや なんだか このまま帰りたくなくてね」


「港に行ってみましょうか 客船が入港してるはずだから」





しばらく海岸線を走ると 客船の大きな姿が見えてきた

動くホテルと称されるように 巨大な船体の窓々には それぞれ灯りがともり 

暗闇に輝く様は美しかった





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