結婚白書Ⅲ 【風花】


父が部屋を出るのを見送ると 母がため息混じりにお茶を入れてくれた



「朋ちゃん お父さんと喧嘩しちゃダメよ 

あんな言い方をしたら 誰だって反対するわよ」


「わかってるけど お父さん 私の話なんて聞く気もないみたいだし

お母さんもお父さんと同じ? どうしても認められないの?」



母は 小さく息を吐くと 手にした湯飲み茶碗を口に運び口を湿らせた



「お母さん 朋ちゃんの部屋で遠野さんに会ったでしょう

あの時 遠野さんの印象がとても良かったの 

いきなり母親が現れたのに きちんとした対応をされたわね」


「そんなことがあったわね……」


「あなたには 少し歳の離れたしっかりした男性が合いそうな気がしてたの

だから あぁ この人なら朋代を任せても大丈夫 そう思ったのよ」


「じゃぁ お母さんは賛成してくれるの?」


「そうね 反対しても あなた 聞かないじゃない 

反対すればするほど反発するでしょう

普段は物事にのめり込まないのに これと思ったら絶対に諦めないんだから

そんなところはお父さんそっくりよ」


「牧野さんにも同じこと言われたわ」


「ただね 娘を持つ親としては ちゃんと結婚式を挙げて 

みんなに認められる そんな結婚をして欲しいの」


「結婚式なんて 私するつもりもないし 無理よ」


「だから それは親の希望よ……まぁ 結婚式はいいとして 

お母さんは 朋ちゃんが幸せになってくれたらそれでいいの

でも お父さんは そうはいかないでしょうね

今でも仕事のつながりが多いし 後輩の手前もあるでしょうから 

簡単には割り切れないはずよ」



父は退職後 外郭団体である協会本部の事務局長をしていた

母が言うように 私の部署ともつながりが深い 何かと接触する機会も多かった



「お父さんと二人で もう一度よく話し合ってみなさい 

お互いに似たような性格だしわかりあえるはずよ なんといっても親子でしょう

それから 今度ばかりはお母さん 朋ちゃんを表立って応援できないわ

私まであなたの味方をしたら お父さんの立つ瀬もないでしょうからね……

今夜はもう遅いわ 先に休むわね あとはお願いね」



「うん……お父さんを待たなくていい?」


「一人で考えたいときもあるわ 朝には帰ってくるでしょう 大丈夫よ」



それだけ言うと 母は寝室にさがっていった




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