結婚白書Ⅲ 【風花】
川本さんが噂を広めるのではないかと心配されたが そんな気配は
感じられなかった
私への接し方は 以前に比べると ややぎこちなかったが
彼女の朋代への視線や態度は 明らかに冷たいものになっていた
そんな川本さんの態度に 朋代は無関心を装うことでやりすごしていた
週末 二人で朋代の実家に向かった
彼女のお父さんは 約束どおり待っていてくださった
私と二人だけで話がしたいと言われた
「今まで君の話を聞こうともしなかった 私も意地を張りすぎていた
それについては謝る」
いきなり頭を下げられ恐縮したが そのあと お父さんの厳しい声が続いた
「君と娘のことは 親としてどうしても納得いかないことなんだ
これだけは伝えておく
だが 反対するだけでは何の解決にはならない それもわかっている
今日は君の言いたいこと 私が聞きたいことを話せたらと思うのだが……」
「わかりました」
朋代のお父さんは あらかじめ聞きたい事をメモしていたようで
いろんなことを 無駄なく私に聞いてきた
離婚の経緯と条件
子供の養育について 親権問題
私の両親の意向
今後の仕事への取り組みなど 多岐にわたり質問された
私の答えに ひとつひとつ頷き 時折質問しながら 丁寧に対応してくださった
朋代のお父さんと一緒に仕事をしていた 牧野補佐から聞いたことがあった
「桐原さんは 実直な人柄でね 仕事にも自分にも厳しい人だった
表面は穏やかそうにしているが 相当忍耐強いんだろう
部下が不始末をおこしても 決して怒りを表すことはなかったよ」
その通りだと思った
私の話に耳を傾ける その姿勢に 実直な人柄が表れていた