結婚白書Ⅲ 【風花】
お母さんが 朋代を抱きかかえながら とつとつと話し出した
「そこの写真の ゆうすげの花を見て 朋代が自分みたいだって言うんです
夕方から夜にかけて咲いて 朝しぼむ花だそうです
それを聞いたとき 母親としてなんにもしてやれない自分が情けなくて……」
お母さんの手が 朋代の背中を優しく撫でていた
「この子は 小さい頃から手のかからない子だったんですよ
勉強だって言われなくてもちゃんとやるし 親との約束も守る
長男にはそれなりに手を焼きましたが 朋代の心配したことはなかったのに
最後の最後に 親に心配をかけて……
これで帳尻があったのかもしれませんね」
その言葉に 朋代が声をあげて泣き出した
お父さんとの約束どおり 私の転勤に関して 朋代には一切伝えなかった
まずは 私の両親に会ってからと それだけ聞いて彼女は一応納得したが
まだ すべてが解決したとは思っていないようだった
御用納めを済ませた 暮れの29日
私は朋代を伴って東京の姉の家に向かった
もともと両親の住まいだったが 日本を離れるとき姉夫婦が譲り受けた家だった
一年に一度は帰国する両親は 昨日帰ってきたらしく 私達を待っていた
両親や姉夫婦に 私達の結婚を反対する理由など どこにもなく
緊張していた朋代の様子も すぐにほぐれてきた
二日間をここで過ごし 正月も一緒にと両親が勧めたが 朋代は大晦日に
帰っていった
「去年は家を飛び出して 両親に寂しい思いをさせてしまったから
今年は一緒に過ごそうと思って……」
空港に送る車に中で語られた 朋代の両親への想いだった
ようやく先が見えてきた私達の将来
辛い年明けから始まった長い一年が ようやく暮れようとしていた