結婚白書Ⅲ 【風花】
赴任先で 思いがけない人物と一緒になった
「遠野課長いつ再婚したんですか 驚きましたよ」
新任者の歓迎会の席で 各務君が小声で話しかけてきた
調査官の各務君も 今回の転勤で同じ県に赴任してきた
私は調査課の課長になり 彼は私の部下になっていた
「女子職員から聞かれて びっくりしました」
「びっくりしたって何を」
「『遠野課長 指輪をしてるから結婚してるんですね
各務さんなら知ってますよね どんな奥さまですか?』 って聞かれて
僕のほうが驚きました」
「あぁ 隠すつもりはなかったんだが なんとなく言いそびれてね」
「いいですねぇ 僕なんかまだ一度も結婚してないのに……あっ すみません」
各務君が 頭を掻きながらバツの悪そうな顔をしていたが
気をとりなおしたのか 困ったことを言い出した
「僕には いつか奥さんを紹介してくださいよ
みんなから 課長の奥さんがどんな人かって聞かれて
とぼけるの 大変だったんですから」
「ははっ そうだね だけど 驚かないでくれよ」
「驚くって どうしたんですか?
まさか ものすごく年下の女性と結婚したとか?」
「いや そうじゃないんだが……」
「じゃぁ かなり年上ですか?
僕は遠野課長の奥さんがどんな方でも驚きません」
各務君の勢いに 朋代と結婚したことを言いそびれた
彼はここでも人気者だった
気さくな人柄で 彼の周りにはいつも誰かがいた
「各務君 ここには希望をだして赴任したそうだけど」
「えぇ 隣の県が僕の出身地です 隣と言っても県境ですから本当に近くて
親父が 去年の暮れに病気で倒れまして
野菜農家なんです 結構手広くやってるもので人手が足りなくなりまして
本当ならあと数年は地方を回るんですが そんな事情で無理をお願いしました」
「それは大変だったね だけど ご両親も喜ばれただろう?」
「それはそうですが 嫁はまだかと そっちのほうがうるさくて困ってます
気になってた桐原さんは 他の人と結婚したっていうし
課長だって再婚したのに どうして僕だけ縁遠いんでしょうね 不公平ですよ」
ますます朋代のことを言い出しにくくなっていた