結婚白書Ⅲ 【風花】


朋代から 来月早々こちらに来ると連絡が来たのは 歓迎会から

間もなくのことだった



「お父さんが心配してるの 衛さんに不自由をかけてるんじゃないか

自分は大丈夫だから 貴方のところに行きなさいって 

しきりに言ってくれたの」



義父の気遣いがありがたかった

一人暮らしに不自由はなかったが 朋代とは結婚後ほとんど一緒に暮らして

いない

一日でも早く一緒に暮らしたかった

先日の歓迎会で交わした 各務君とのやり取りを話すと……



「各務さんには ちゃんとお話した方がいいわね わかりました 

心積もりしておくわ」



朋代の落ち着いた声に安堵した





5月に入り ようやく朋代が残りの荷物と一緒に来た

部屋に着いた早々 もう掃除や片付けを始めている



「お父さん 衛さんのことをずいぶん気にしてたわよ

書類を預かってきたの 調査課の補佐をされていた方の資料みたいだけど

衛さん 調査課は初めてなんでしょう? 

プライドの高い調査官をまとめるのは大変だろうって

お前が家庭で しっかり支えてやれって言われちゃった」



そう言うと くすっと笑って また荷物の片付けの続きを始めた

仕事の手を休めることなく 離れていた間の さまざまな出来事を彼女が話す

そんな話を聞きながら ようやく彼女と一緒になれた実感が湧いてきた




手渡された書類に目を通すと 一通りの引継ぎではわからない細かい業

務内容が記されたもの それに付随する関係書籍が数冊入っていた

義父に電話をすると 松葉杖で歩けるようになったから心配はないと

気丈な声だった



「資料 ありがとうございました 助かります 

特殊な課ですから なかなか対応が難しくて」


「結婚してすぐこんなことになってしまって 

不自由な思いをさせてすまなかった 本当に申し訳ない

すこしでも君の役に立てばと思い朋代に持たせた 

少し古いものだが使って欲しい」



資料の内容を補足説明する義父の話しぶりは 現役時代を髣髴とさせる

ものだった

難しい立場で出会った義父であったが これを境に 私の仕事の

一番の理解者になっていった
 


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