結婚白書Ⅲ 【風花】
「私 仕事をやめちゃったから
衛さんのお給料だけで やりくりしなくちゃならないのよね
無駄遣いはできないわね これから節約生活よ」
彼女がそろえた家具や日用品は 控えめなものばかりだった
古い官舎は昔ながらの作りで 大きな家具が入らないこともあったが
これから転勤を繰り返すからと 朋代も私も 余計なものは処分して赴任した
「畳にお布団を敷くの なんだか新鮮ね」
そんなことさえ楽しそうにしている
一月ぶりに触れた彼女の肌は しっとりと熟れた香りがした
私にしかわからない香り
それはあらゆる感覚を刺激する
何度となく朋代を求め 彼女も我を忘れたように応じる
腕の中で吐き出される熱い息と いつもより大胆な反応をみせる朋代の肢体が
更なる幸福を私に与えてくれた
「各務君 今週末 家に来ないか?」
引越しの片づけが済み 家の中が落ち着いた頃 各務君に声を掛けた
「本当ですか?待ってました 楽しみだなぁ 遠慮なくお邪魔します」
金曜の夜 各務君の訪れを知らせるベルが鳴った
私も朋代も 少しだけ緊張して彼を迎える準備をした
「こんばんは お邪魔します」
靴を脱いだあと顔を上げ 私の後ろに現れた朋代を見たときの彼の顔は
いまだに忘れられない
「桐原さん……」
「各務さん こんばんは こちらでもお世話になります」
「え ―― っ!! 課長 これって……」
各務君を部屋に通し席に座ってもらったが 彼は 私と朋代を交互に眺め
目を大きく見開いて 驚きを隠せない様子だった