恋はいっぽから!(続編)~夜明けの珈琲~
夜は深みを増して。
外は…、日中の暑さが嘘のように涼しくなっていた。
「……素敵なお店ですね。」
「ああ。」
彼女は無邪気に横に並ぶけれど…、俺は気のない返事を返す。
「ワールドカップが開催したら、ぜひあそこで観戦したいわ☆」
夜風に晒されて…、君の髪がふわりと揺れる。
「……何か怒ってますか?」
彼女は足を止めて。
先を歩く俺の背中へと…問い掛けた。
「……別に。」
「嘘。怒ってます。」
「怒ってねーよ。」
「……なら…、少しくらいこっちを見て下さい。」
「…………。」
「今日一日…、先生は目を逸らしてばかりです!」
「……は?」
「ドキドキしてるのも、楽しいのも…私ばかり。」
「………。」
「貴重なお休みを私の為に使ってくれて…、きっと、相当気も遣ってくれたんですよね。」
「………。」
「……すみませんでした、ご迷惑をお掛けして……。」
彼女の瞳に……
みるみると涙が溜まってくる。
「…実家に…帰らせていただきます。」
……夫婦か。
「どうぞ先生は気兼ねなくいつもの生活に…戻って下さい。」
「…………。」
「……楽しかったです。……さよなら。」
ぼろっと涙を流して…
彼女は、反対の方向へと…歩いていく。
「……………。」
確かに俺は…、自分のペースが崩れるのが嫌で、
タガが外れてしまわぬようにと……、ギリギリの所で、目を逸らしていたのかもしれない。