恋はいっぽから!(続編)~夜明けの珈琲~
恐る恐る目を開いて。
音のする方へと……
視線を移す。
「………?!!」
ぼんやりと浮かび上がってきたのは。
白装束の老婆………!
……ではなく、
白いぶかぶかのTシャツを身に纏った……
一歩。
「……アラ…、目を覚ましてしまったのですね。」
薄暗い部屋で…ニヤリと笑うその顔に。
思わず…、寒気が走る。
「…な…、何してんの?つーか、今何時?」
「現在朝の4時。そして私は…豆を洗っ……イエ、豆を挽いている所です。」
「……は?」
俺は起き上がって、なぜかキッチリと畳まって置かれている服に着替えると……。
彼女のいる、キッチンへと向かった。
「…豆って……。」
「珈琲豆です。」
「……。てか、その豆ひき…どうしたの?」
「昨日買ってきました。」
「……は?」
「……憧れなんです。大好きな人とお洒落なバーでお酒を飲むことも、こうして、こんな夜明けに、一夜を共にしたお相手と、モーニングコーヒーを飲むことも。」
「……………。」
「起こしてごめんなさい。失敗したくなかったので…練習しようと思って。」
そう言って彼女は…豆を挽くハンドルを…ゆっくりと回す。
独特な音と共に、
いつもとは違う……
匂い。
香り高い、高貴な香りが……運ばれてきた。
「………。お前…、今日帰るんだろ?」
「……?はい。」
「寝てたら時間が勿体ない。今…飲もう。」
「……!…はいっ!」
彼女は……その、大人びた顔つきで。
けれどどこかあどけない華やかな笑顔で…笑う。
「……俺も挽いてみたい。」
「いいですよ。」
俺は背後に回って。
彼女の後ろから…その手を取る。
「……え?」
「……一緒に。」
「……はい。」
静かな……夜明け。
朝日も、鳥も、目を覚まさないその中で……
俺達が豆を挽くその音だけが……
響いていた。