愛ヲ、クダサイ。
「あの時と一緒なのでしょう? あなたが天界を追われた、あの夜と」
サタンの心を見透かすが如く、ベリエルは静かに言った。
「どうします? このままでは、あなたは千年以上封印されますが」
アバドンの封印には、魔王であっても逃れることは出来なかった。
彼が逃げられない、避けられないことを知り、ベリエルは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「クソっ、クソがぁ!」
血ヘドを吐きながら、サタンは憎しみの言霊を喚き散らした。
だが、その時だった。
パキパキッ――。
サタンの背後の空間に、大きなひびが入ったかと思うとそのままぱっくりと割れ、大きな裂け目ができた。
その先は影よりも深い闇である。
それを目にしたベリエルは……、
「馬鹿な、魔王だぞ!! こんなことが――」
と、明らかに狼狽えだした。
アバドンも思わぬ事態に困惑しているようであった。
「召喚が起こるなんて――!」
彼にとっての思いがけぬ救いの闇、それは下界への窓であったのだ。
そして、魔王サタンは混沌とした闇――そう、歪みに消えていったのであった。