鳥かごと処女
ふと、隣のセードルフを見れば、もっと何かをこらえるような表情のセードルフが居た。


「あ、俺食器片付けてくるから。エメシェ、体に気を付けて。」

「え、あ、ありがとうリョウイチロー。あなたも・・・」


エメシェが言い終わる前に、亮一郎はテーブルの上の冷めたスープの入ったカップを持って部屋を出た。
セードルフの彼女への気持ちを知っていたからだ。

本当はエメシェに自分の素姓を話したかったが、いずれ帰ってきた時に話せばいい。


その“いずれ”が来る前に去る事になっても、今は話す時ではない。


帰ってこない牧師。
奉公にあがるエメシェ。

2人が無事に帰って来ることを、信じてもいない神に祈る事しか、亮一郎には出来そうになかった。

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