鳥かごと処女
この貴重なパンを、エメシェは笑って差し出してくれた。
見ず知らずの、行き倒れの、自分なんかに。

「アリガトウ。」

人は、優しい。
自分の暮らしていた未来の日本は、お金を出せばなんだって買えた。
それなのに、皆どこか満たされない。
だがここは、食べるものも飢饉で無いのに、こんなにも優しくしてもらえた。
胸の奥に広がる暖かさは、亮一郎が今まで味わった事の無いものだ。
「はやく、元気になってね。」
聞きとれる単語をつなぎ合わせ、なんとかエメシェの言葉を理解する。
「アリガトウ。」
まだ慣れない言葉では、これ以上伝える事が出来ない。

歯がゆい気持ちを抑えて、頭を下げる。
外国人から見た日本人は頭を下げ過ぎだと言われるらしいが、今自分に出来る事はこれぐらいだ。
エメシェは優しく微笑んで、牧師と共に部屋から出て行った。
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