鳥かごと処女
胸の鼓動が、どんどん速くなる。
寒さと恐怖で、手が震えた。

(鳥かごに触っただけで、死ぬわけねえよな?)

あの蔵での出来事が、遠い昔のように思えてくる。
光の中で聞いた祖父の声も、いつしか忘れかけていたというのに。
手だけでなく、体も震え始めて、立っていられなくなった。
せっかく耕したばかりの畑に、力を失って膝をつく。なんとか倒れ込まずにすんだが、立ち上がる事は出来ない。

「リョウイチロー!大丈夫か?!」
作業の手を止めて、セードルフが駆け寄った。
「どうしたんだ?どこか、痛むのか?」
急に膝をついて震えている亮一郎に、セードルフは焦った様子で話しかける。
亮一郎は泣きそうになるのをこらえながら、震える自分のマメのつぶれた両手を見つめた。

「俺、生きてる。」

セードルフは最初、この言葉の意味が分からなかった。
単語を言い間違えたのかと思うぐらいに、おかしな発言だったから。
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