お隣さんと私
2・死神遭遇
【2・死神遭遇】

 昔、自動車の免許を取りに行った時に講師がこんな事を言っていた。
 『焦って運転をするとな、小さい死神を一匹、一匹同乗させる様なもんなんだぞ。それで、そのうちに事故を起こすんだ』
 私はソレを面白い比喩表現だと思ったのをよく覚えている――

 最近の私は何かと忙しい。
 いろいろと用事が降り積もり、やりたい事もありで、時間がいくらあっても足りないのに、そういう時に限って、狙ったように用事が降りかかるのだ。
 その日の私は寝不足のせいもあり、起きた瞬間からイライラしていた。明るい陽射しが無性に苛立ち、だからといって雨だったならそれはそれでブちぎれていた事だろう。
 「今日という日を晴れにしておいてよかったな天気! 命拾いしたぞ!」とか心の中で叫びながら私は家を出た。
 「おはようございます。お嬢さん」
 垣根一つで隣人の庭と隣接しているガレージで原付に乗ろうとしていると、庭の掃き掃除していたお隣さんが楽しそうに挨拶をしてきた。
 「おはよ……ございます……」
 私はイライラとしたままそう返事をした。いつも通りのお隣さんの笑顔にも苛立つし、挨拶を返すのも億劫でまたイライラとする。
 「お嬢さん、今日はいつものジャージとは違って綺麗なカッコですね。遠くへお出かけですか?」
 少し面白そうだという口調での疑問に苛立った私はお隣さんを睨むだけ睨んで、返事を返さなかった。
 お隣さんはそれについては気にした様子はなかったのだが、私の後ろを見て唐突に「あっ」と言う声を上げる。その声につられて振り向いては見たが何もいないではないか。
 それなのに隣人は、そのまま家の中に駆け込んで行ってしまう。
 「なんとまあ、失礼な人」
 私は文句を口に出して、原付に跨る。しかし、どうした事かバイクの調子が悪い。エンジンがかからないのだ。
 そうこうしているうちに、いつの間にか家から出てきたお隣さんが私に駆け寄ってくる。
 ――パチン。
 駆け寄ってきた隣人はいきなり人の首に首輪をはめてきた。
 停止する思考。思考再開。
 「――……何するんですか!!」
 首輪をすぐに外そうと私はもがく。
 「外しちゃダメ!」
 真剣な声と顔のお隣さん。そのままお隣さんは私の手を強く掴んでもう一度「外しちゃダメです」と言った。
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