廻る、出会いと別れ
「あら?橘さんまだ残ってたの?」
スタッフルームには誰もいなかったはずなのに、急に声をかけられ驚いてしまった。
振り向けば、先輩作業療法士の小野田さんが立っていた。
小野田さんは既に私服だから、何か忘れ物でも取りに来たのだろうか?
「はい。ちょっと調べたいことがあって、ジャーナル読んでたら遅くなってしまって」
嘘ではない。ちゃんと調べ物もしていたから。
ただ、ボーっと考え事をしていた時間のほうが長かったかもしれないけど。
「こんな遅くまで偉いね」
そう言って歩く小野田さんはなぜか私のほうに向かって来ていた。
まだ帰らないのだろうか?
そんなことを思っていると、小野田さんは私の隣の席に腰を下ろした。
「小野田さんはまだ帰らないんですか?」
私は疑問に思ったことを素直に聞いてみることにした。
そうすると小野田さんは一瞬何か考えるような表情をしたと思ったら、ニコりと微笑んできた。
とてもやさしい笑顔で。