first love【完】
まだ明るい中庭にしゃがんでいる咲希がいた。
近づくと真後ろに来たところで音に気付いたのか、立ち上がり振り向いた。
俺はそのまま咲希の背中に腕を回し、抱きしめた。
「りゅ、う?」
いきなりで驚いたようだが、嫌がってないのは触れる体から伝わる。
俺はそのまま話をした。
「咲希、お守り…ありがと…
“fight”…俺だけだね?」
「あ、まりあちゃん、渡したんだね…
彼女、ほんとに頑張ってたから。
部活で疲れてるのに、偉いよね」
そう柔らかい声で嬉しそうに話す咲希。
なんだか、その声を聞いてたら、胸をギュッと捕まれたみたいに苦しくて、切なくなった。
俺はただ、イラついたり八つ当たりしてたのに、咲希は清水を思いやり、助けて、さらに讃えてる。
この違いはなんだろ…自分が情けなくてたまらないよ。
「咲希、昨日は酷い言い方して
ほんと、ごめんな。
これのせいで、睡眠不足に
なってたんだろ?それを…」
「ううん、竜の言ったことは
間違ってないから、謝らないで。
だって、まりあちゃんは
アクビなんてしてなかったし。」
「だけどっ、どう考えても、
咲希のが大変な作業しただろうが」
「そんなことないよ。
私は慣れてるけどまりあちゃんは
嫌いなお裁縫と向き合って
ちゃんと約束の日までに
全員分、刺繍したんだよ?」