first love【完】
私が踏まれた花たちを、悲しい気持ちになりながら見ていると、桜井君がかけてきて、花壇の側にしゃがみこみ、倒され踏まれた花たちをなんとかしようとしているのが、見えた。
でもすぐに誰かが出てきて、桜井君を立たせて中に引っ張っていってしまったが、最後まで花の方を振り向き、指を指して何かを言っていた。
ほとんど声など聞こえるはずないのに、その時の私には「あのままじゃ、花が可哀想だろ」と言ってる桜井君の声が確かに聴こえた気がしたの……。
それから、少し気になりだして見ていると、小さな、誰からも評価もされないようなことも、嫌な顔をしないでやっていたりして、ほんとの強さや優しさを持ってる人だと知り、いつの間にか大好きになっていた。
…*…*…*…*…*…*…
密かな恋心を持ち、夏休み明けからは体育館に桜井君を見に行くが人も多く、中まで顔を覗かせる勇気はなくて、小さいくせに一番後ろからほんの少し見るだけ。
五月晴れの今日も、そんな風にチラッとだけ見て、中庭の花たちへ日課の水やりをしていた。
放課後のこの時間は人の通りもなくて、ゆっくりと花を慈しむことが出来るから好き。
バスケ部の練習が終わる前に帰れば、見学者や部員もこちらを気にしない。
私はこの水やりを、かなり以前から見られていたことなど知らずに過ごしていた。