幸せの選択
「俺さ、千秋にずっと謝りたくて……」


ゆっくりと顔を上げて弘之の顔を見上げると、凄く困った顔をしていた。



「謝らなくてもいいよ。だって、私も悪いから」


そう。弘之が一方的に悪いんじゃない。
ジワジワと、私に依存して生きるように仕向けてきたのは、私の方。


仕向けたくせに、結果息苦しくなってその手を離してしまったのだ。






「いや、謝らせて。じゃないと、俺、また千秋に甘えたままになる。
前へ進みたいんだ。千秋のいない生活をさ。だから――」



私の返事を待たずに深々と頭を下げ「ごめん」と言った弘之の頭を上から眺めながら、今本当に終わったんだと思った。



あの夜から、未練なんてないと思っていた。
だけど、今こうして弘之から『千秋のいない生活に進みたい』と言われた瞬間、寂しさが込み上げてきた。


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