禁断の果実


「・・・・・泣いてる」


そう言って、先生は涙を拭ってくれたんだ。

「え・・・あっ・・・・あたしいつの間に・・・」

あたしはアタフタとしながら頬を赤く染める。

「椎名は・・・ピアノ弾いてたの?」

「は、はい・・・小さい頃から高校入るまではずっと・・・」

先生はそう言ったあたしの頬に触れたまま、じっとあたしを見下ろす。あたしは体が硬直して指1本も動かせなかった。

「何でやめたの?」

「えっと・・・理由は特にないんですけど・・・・音楽をする事があたしの夢だと聞かれると、そうでもなくて・・・元々母親に進められたものなんで・・・・でも、ピアノを弾いたり、音楽聴いたりするのはとても好きです」

小さい頃、母親に進められて何となくピアノをやっていた。そして消極的で引っ込み思案なあたしは言葉で伝えるのが苦手だったために、音で自分の気持ちを伝える事を知った。
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