オトナのキュンラブ†堕落~人でなしの恋†『色悪』シリーズ
人でなしの恋
「…ん」
触れてきた唇は私の唇に柔らかく重なった。
唇を唇でなぞるような優しいキスは、彼の穏やかな人柄そのもの。
彼はそっと唇を離すと、私の頭を抱いて自分の腕の中へ引き寄せた。
マンションの前に停められた車の中、夕方から降り始めた霧雨がベールのように車ごと私たちを包む。
「帰したくないな」
一人ごとのようにつぶやいた彼の言葉を、私は彼の胸に頬を寄せて聞いた。
彼と出会ったのは五年前の入社式でのこと。
それからは同僚として同じチームで、働いてきた。
それが半年前、突然彼に告白されて---
「綾音、ずっとお前のことを見てきた。
だから最近のお前を見てると心配でたまらないよ…
悩んでいることがあるなら、俺にも背負わせてくれないか?
綾音のことが好きなんだ」
私はひどく疲れていた。
気持ちの上では毎日綱渡りをしているように追い詰められていた。
だからすがってしまったのだ。
差し出された彼の手に…
それでも私は彼に悩みを打ち明けることは出来なかった。
彼はそれを責めることもなく、ただ黙って私に寄り添ってくれた。
日溜まりのような彼のぬくもりは、疲れ、荒れ果てた私の気持ちを癒やしてくれた。
「綾音。愛してるよ」
彼の暖かい腕はいつも私を求めてきて、そっと抱きすくめられる。
そして彼は私のことを宝物のように大事に扱うのだ。
こんな私を…
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