オトナのキュンラブ†堕落~人でなしの恋†『色悪』シリーズ
私は目を閉じて凌の肩にもたれかかり、大きく息を吐いた。
ずっと動きっぱなしだったせいで、足がガクガクして震えがおさまらない。
「綾音の欲しいものは手に入ったか?」
私は今味わった絶頂のせいで気だるい目蓋を持ち上げた。
乱れた前髪が翳を落とす隙間から、凌のオニキスのような目が私を見ていた。
私は手を伸ばし、凌の頬を包んだ。
「…ん---」
見詰め合ったまま唇を重ねる。
私の欲しいものは凌だけ。
凌だけが欲しいから、私は手を伸ばして自分から求めたの。
「じゃ------
俺は俺の欲しいものを手に入れに行く」
「え?」
邪険に押しのけられて、私はよろめきながら凌の上から退く。
「欲しいものは自分の手で奪いにいく---だろ?」
その時、私は気がついた。
凌が会いに来てから、一度もその手に触れられなかったことに。
ソファーの下に座り込んだ私を、凌が醒めた目で見下ろしながら身繕いをする。
「ただ、それが手に入るかどうかはわからないけどな」
うっとりするような嫣然とした微笑を浮かべた凌は、するりと身をかえすと
何事もなかったかのような落ち着いた足取りで私の視界の中から消えた。
バタン、と背後で玄関でドアの閉まる音がした。
私が求めていたのは、凌に抱かれることでも抱くことでもない。
凌自身が欲しかったのに……
凌は初めから私を欲しがってなんかいなかった。
ただ気まぐれに私に抱かれてみてただけ。
私は一度は手にしたと思ったものが、砂のように指の間からすり抜けていくのを感じた。
後に残ったのは
------堕ちてしまった女。