オトナのキュンラブ†堕落~人でなしの恋†『色悪』シリーズ
「綾音」
低い艶のある声に名前を呼ばれて、我に帰る。
「凌……何しに来たの?」
「綾音に会いに」
「どうして?」
「会いたかったからだろう」
そう人ごとのようにするりと言い放ち、薄い笑みを唇に浮かべる。
体の震えが止まらないのは雨に濡れたからじゃない。
まるで半年間のブランクなど感じさせない凌に、ぞっとした。
なによりも、簡単に半年前の気持ちに引き戻されそうになる自分が怖くて------
そんなことは許されない。
「…私、付き合ってる人がいるの。
近いうちに結婚もする」
「そう。
おめでとう、とでも言えばいいか?」
一瞬のうちに体中の血が煮えたぎった。
「どうして?!
どうして凌はそんなに平然としていられるの?!
他に何か私に言うことはないの?!」
「俺に何を言って欲しいんだよ」
凌の言葉にガクリと膝から崩れ落ちた私は、力なくその場に座りこんだ。
この世のものと思えないほど綺麗な顔が、表情のないまま私を見つめる。
「…半年前、凌がいなくなって---
気が狂いそうなほどつらかった…」
私はうなだれ、ポツリと吐き出した。
「…私では凌のことを繋ぎとめられないじゃないかと思っていたけど---
…いつか凌が私だけを見てくれる、愛してくれるって信じたかった」