オトナのキュンラブ†堕落~人でなしの恋†『色悪』シリーズ
話始めると言葉は止まらなくなって、私は凌を見ないまま次々に吐き出した。
「凌がいなくなってボロボロになった私を救ってくれたのが今の彼よ。
ずっと私だけを見て、愛してくれて、私のことを必要だと求めてくれる人」
ポタリ、と床に落ちたのは雨粒じゃない。
涙が氾濫し始めた目を凌にむける。
「凌はいつだって私の愛情を受け取るだけで、何ひとつ返してくれなかったわ」
凌は仰け反るようにソファーの背に頭を預けけると、半眼になり嫣然と微笑んだ。
「俺が欲しいなら、指をくわえて見てないでそう言えば良かったのに」
「凌、…」
「俺を抱けよ、綾音」
長くて濃い睫毛は、泣きボクロの上に扇形に影をおとしていた。
彼こそが色悪。
私のように平凡な愛を望む女が決して出会ってはいけない男。
見慣れたはずのソファーが幾何学模様を描く大きな蜘蛛の巣に見える。
一度絡めとられればそこから二度と抜け出すことは出来ない……
「さぁ、早く」
うっすら開いた形のよい唇から零れる、吐息ののように甘く低く掠れた声は私に催眠術のように作用する。
今すぐ、総てを捨ててでもここから立ち去るべきだ。
今なら、まだ間に合う。
そうわかっているのに---
凌の長い指が私を拱く。
「綾音。
お前の欲しいものはここにある」
私は凌の首に飛びつき、しがみついた。
「凌、凌、---凌…」
されるがままの凌は、頭をソファーの背に預け仰け反ったまま薄い笑みを浮かべる。
「欲しいのなら、好きなだけ奪えばいい」