恋とくまとばんそうこう
だって好きなんです。
…あ、滝井君だ。
澄香は楽譜を片手に持ちながら、窓から見えるグラウンドをぼんやりと眺めた。
バッターボックスに立つ彼は堅そうな帽子を深くかぶっていて、二階からはその凛々しい顔がよく見えない。
「なぁに?また軟式見てるの?」
同じコーラス部の胡桃が澄香の肩に顎を乗せ耳元でつぶやいた。
澄香はアハハとごまかすように笑って楽譜に目線を戻す。
もちろんそんな事をしても胡桃にはバレバレな訳で。
「あ、滝井くん、女の子から差し入れもらってる。」
「え?!」
胡桃の意地悪な声についつい反応してしまったり。
「うっそ。本当は受け取ってない。」
思わず窓から身を乗り出した澄香に胡桃はクスクス笑った。
「軟式野球部の滝井選手は硬派で有名だもんねー。」
目の良い澄香が目撃したのはタオルと一緒に突き出された手紙を、ちょうど一周してきた滝井君が断っている所で。
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