オレンジジュース~俺と一人の生徒~
早速、今日出席を取って、俺は自分の弱さに驚いた。
俺、「矢沢」って声が出なかった。
せきをして誤魔化したこと、直は気付いてるんだろ。
だから・・・直は、俺に声をかけた。
「先生、さようなら!!風邪早く治してね~!」
元気良く走り去って行く背中に呟く。
「この風邪は一生治らねぇよ・・・」
初日からこれだと、この1年どうなるんだろう。
俺のこんな想いはすぐに吹っ飛んだ。
とにかく忙しかった。
だから、いつの間にか直の担任であることを意識しなくなった。
「はぁ、忙しい・・・」
おい、直。
お前の出番だぞ?
いつも、俺がこうして忙しくて疲れている時に、どこからともなくお前が出てきて
声をかけてくれただろ?
『先生、元気ないね』って。
来てくれよ、直。
俺は疲れると、音楽室の前の廊下から夕日を眺めた。
直、俺はここで待ってる。
卒業式まで、俺は・・・
ここで直を待つ。
以心伝心の俺と直だから、直にはわかってるだろ?
俺の気持ち。