オレンジジュース~俺と一人の生徒~
音楽室
来るはずないのに。
来た。
足音でわかる。
左を見ると、直は俺に向かって走って来ていた。
昔のように・・・俺だけを見て。
「せんせ・・・」
声の出ない俺は、ただただ直の瞳を見つめていた。
潤んだその瞳には、どんな俺が映ってる?
吹奏楽部の音楽が、ゆるやかな曲に変わった。
俺は、直の腕を掴み、誰もいない音楽室へと入った。
「なんでだよ・・・なんで・・・来んだよ・・・」
俺は涙が溢れて、どうしようもなかった。
「先生・・・」
目の前にいる直を見ることができず、俺は直を抱きしめた。
「もう、来ないと・・・思った」
「先生・・・」
直は、「先生」と何度も言って、俺の背中を優しく撫でた。