オレンジジュース~俺と一人の生徒~
教育現場で働く俺。
俺の目指す教師に、俺はまだほど遠い。
でも、自分の伝えたいことが相手に少しでも伝わった瞬間というのは
いつも、涙が出そうに感動するんだ。
「ばいばい、先生」
お姉さんが俺を「先生」と呼んだ。
初めて会った、得体の知れない高校教師を
「先生」と呼んでくれた。
階段を下りる俺の胸は熱くなる。
会えて、良かった。
また、会いたいと思った。
矢沢の優しさは、この家庭で育まれたんだ。
お母さんの包み込むような笑顔は、矢沢にもお姉さんにも受け継がれていて、
2人とも笑顔が印象的だ。
笑っていて欲しい。
お母さんもお姉さんも、矢沢も…
玄関で俺を見送った後、矢沢の声が夜道に響く。
大好きな声。
「せんせー!」
そんな大声出さなくても俺は振り向くよ。
だってさ…
心のどこかで待っていたから。
お前が追いかけてきてくれることを期待してたから…
パジャマ姿の矢沢が、
夜なのに、太陽のような笑顔で俺に向かって走ってくる。