オレンジジュース~俺と一人の生徒~
心臓の音が聞こえないかと心配になり、冷房を強くした。
風で舞い上がる矢沢の前髪。
ほんのり赤い顔。
まだ潤んだままの瞳。
「さっきまでは、教師としての俺の役目。今からは、男として……」
俺は
そっとそっと矢沢の体を引き寄せた。
強く触れると
すぐに割れてしまう繊細なガラス細工のような…
そんなお前を
俺は優しく抱きしめた。
「だめだ」といつも囁くもう一人の俺が、もう何も言わなかった。
「好きにしろ」と呆れ顔で俺を見ていたことだろう。
誰に何を言われても
今の俺は、矢沢を抱きしめたかった。
良く頑張ってるよ…
もう一人で泣くな…
俺がお前を守るから。
いつでも飛んできて、お前の涙を拭いてやるから…
もう
寂しい瞳で、空を見つめるなよ。