ねぇ、キスして?
「ここで待ってる」


「……」


「あっくんは子供と元カノに会ってきて。ちゃんと、終わらせてきて」


「…奈留…」



呟くようにそう言ったあっくんは、心配そうに眉を下げていて……



「あたしは大丈夫だから。ちょっと勇気がなくなっただけ」



そう言って視線を下げたあたしの表情をうかがうようにじっと見たあと、大きな手であたしの頬をすっぽりと覆いながら……


あっくんはそのまま自分の視線とあたしのそれを絡ませた。



「あっくん?」



目の前の瞳は凄く真剣で、でもそれ以上にやさしさが感じられて、さっきまでの不安や胸の痛みが和らいでいくのを感じる。



「今の俺には、奈留しかいないから。奈留だけいてくれればいい。……他には何も要らない」



さらにそんな言葉を付け加えたあっくんからは、ほんとにあたしのことを想ってくれていると伝わってきて、じわりじわりと胸が熱くなってくる。


だから、あたしもそれに応えなきゃと口を開く。



「あたしもあっくんだけだよ。……あっくんのことを信じてるから、ちゃんと会ってきて」


「ん、奈留、ありがとう」



あたしの想いもちゃんと伝わったようで、あっくんはそう言ったあと車から降りてそのままアパートの階段を上がっていってしまった。
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