ねぇ、キスして？

いつの間にか車のすぐ横に来ていた彼は、そのままガチャッとドアを開けて運転席に腰を下ろした。



「待たせてごめんな」



少し眉を下げながら申し訳なさそうにそう言った彼は、あたしの頬にそっと手を添えた。


そして口を開きかけたとき……



「篤史(ｱﾂｼ)くんっ！」



車の外で彼を呼ぶ声がした。


自然と視線はその方向へ向いてしまう。


そこに見えたものは、大きなお腹を抱えた可愛らしい女性とちっちゃな女の子が小走りでこっちへ向かってきている姿。


その瞬間彼の口から飛び出した言葉……



「理彩(ﾘｻ)？」



頬に添えられていた手が離れて、その手がドアにかかり、そのままそれを開けて彼は外へ出てしまった。


温かかった頬が一気に冷えて、胸がズキンッと痛んだ。


この人が、元カノなんだ。


そして、彼にそっくりな瞳を持つこの女の子が彼の子供。


それに気づいたら、もう直視することができなくなった。


助手席に、俯きながら座っているあたしはこの時間をどう過ごしていいのかわからず、そのままただじっとしていた。


そしたら、突然助手席のドアが開いて……



「奈留、降りて」



という彼の言葉が耳に届いた。