竜の箱庭
「シィのアザは、何か違う意味をもっているのかもしれない。なおさら、お前を王都に行かせるわけにはいかないんだ…」

「でも、争いが起こらない為に王都に行くのなら、危ない事なんてないんじゃ…」

シィが戸惑いながら尋ねると、ルードはきっぱりと首を横に振った。

「これはあくまで噂だが…、王都に行った来訪者たちは、その身体を魔術の器にされるのだと聞いた事がある」

「器…?」

「言っただろう、この国の発展のための歯車のひとつにされるんだ…お前を、そんな危険なところに連れていくわけには…」

ルードが言いかけた時だった。
閉めてあった扉が、激しく叩かれた。


 「レイネル!来訪者を匿っていると聞いた!今すぐ引き渡せ!」

「あなた…」

外から聞こえた声に、リーズが青い顔でルードの腕を引いた。
ルードは頷くと、シィの事をゆっくりと振り返った。

「行きなさい、シィ。今なら、裏からそっと出て森に出てしまえば、そう簡単には見つからないだろう。リーズ」

「ええ…」

「父さん…!」

嫌な予感を覚えて、シィは思わず声をあげた。
ルードは微笑むと、シィの頭をそっと撫でた。

「さぁ、早く」

「来るのよ、シィ」

リーズに腕を引かれながら、シィはそっと後ろを振り返った。
丁度役人たちが扉を蹴破り、中に入ってきているところだった。
廊下の角を曲がった辺りで、何かを言い争っている声が聞こえてくる。

「走るわよ、シィ」

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