竜の箱庭
リーズは振り返ることなく、シィの前を走っている。
シィは涙で霞みそうになる視界を拭い去りながら、リーズの背を追いかけた。


 暫く走り、村の裏手にある森の中に逃げ込むと、リーズはやっと立ち止まった。

「ここまで来れば…暫くは大丈夫。シィ、街道は恐らくもう王都の兵隊が待ち構えているわ…ここからは、あなたは一人で行くのよ」

「母さんはどうするの…?」

泣きそうになりながら尋ねると、リーズは優しく微笑んだ。

「あの人を…ルードを一人きりになんて出来ないわ。あなたが少しでも遠くへ逃げられるように、時間を稼ぎます」

「でも…!」

シィが尚も言い募ろうとしたとき、傍の茂みががさがさと揺れた。
思わずシィとリーズが身を硬くすると、茂みの奥から慌てた様子のネリーが姿を現した。

「ネリー!」

「あぁ、よかった…パパから、役人たちがシィの家にいったって聞いて…。おばさん、シィを逃がすのよね?」

「えぇ…」

「じゃあ、私も時間稼ぎするわ。幸い、私もシィと一緒の金髪よ。服を脱がされるまでは偽者だってばれないわ」

ネリーの言葉に、シィは目を見開いた。

「危ないわ、ネリー」

「大丈夫よ、シィ。私を信じて」

「でも…」

「ごめんね、シィ。私が一緒に川に誘わなければ…こんなことにはなってないの。罪滅ぼしをさせて。ね?」

ネリーが微笑む。
シィはそれ以上、何もいう事が出来なかった。

 「いたぞ!」

遠くから、何人かの足音と声が聞こえてきた。

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