竜の箱庭
シィとセインが山間にある寂れた村に辿り着いたのは、大分日が傾いてからだった。
シィが暮らしていた村よりも、更に生活は厳しいのか、人々はどこか活気がない。
余所余所しさすら感じる村人たちの対応に釈然としないものを感じながらも、シィは大人しくセインについて歩いていた。
「村長さん、お久しぶりです」
訪れた村長の家で、セインは柔らかい物腰でそう言った。
村長は頷くと、久しぶりとセインが言った通りに顔見知りなのか、この村で始めて親しげな笑顔を向けてきた。
「セイン様、今回はリルテノール神殿までの道は荒れ果てているようですよ」
訪れた理由にも察しがついていたのか、村長はそう切り出した。
「予想はしていましたが、やはりですか」
セインは静かに呟くと、数枚の紙切れを村長に渡した。
「用意していただきたいものと、いつものものです」
「行かれるのですか…。用意はいつも通り、明日の朝までに済ませておきましょう」
村長はそれだけ言うと、控えていた村人の一人に宿へ案内するように指示して家の中に去っていった。
シィはただ黙って成り行きを見守っていただけだったが、村長に渡した何枚かのメモが少し気になった。
村人に伴われながら宿屋に通され、丸二日近く歩き続けてきたシィはやっと安堵の溜息をついた。
小さな村なのでセインと同室になってしまったが、これ以上の文句も言えないだろうとそこは諦めることにした。