竜の箱庭
翌朝目が覚めると、既にセインの姿はなかった。
窓から外を眺めると、村人たちとセインが何か話しているところだった。
荷物は部屋に置いたままになっていたから、簡単な打ち合わせか何かをしているのだろうと思えた。
シィは身支度を整えると、宿屋の外へ出た。
既に日は昇っていて、薄曇の空に、雲の向こうから僅かに太陽の光が漏れ出ていた。
直ぐ傍に高い山があるせいか、シィの村よりも大分気温が低いような気がした。
シィはきょろきょろと辺りを見回しながら、セインの姿を探す。
目的の人物を見つけると、シィは手を振った。
セインも気がついたのか、笑顔で手を振り替えしてきた。
「おはよう、よく眠れた?」
「うん」
「もうすぐ出発だから、朝食を食べに行こう」
そう言われ、今出てきたばかりの宿屋に戻る。
一階にある食堂は閑散としていたが、宿屋の店主は笑顔で出迎えてくれた。
簡単な軽食を頼むと、シィは気になっていたことをセインに尋ねてしまおうと思った。
「ねぇ、昨日村長さんに渡していたのは何?」
「あぁ…」
セインは微笑みながら頷くと、何枚かの紙を取り出してシィに見せた。
「これは、竜の門番が所属する聖域のみが発行できる通貨のようなものなんだ。ここに紋章があるだろ?今はただの紙切れだけど、渡すときに特殊な呪文を込めるんだ。それを王都に持っていけば、換金できる仕組み」
「どうしてお金を持って歩かないの?」
「金貨や銀貨は重たいしね。私たちは基本的には一人で旅をするし、稀に悪い考えを起こす人間もいる。そういう人間に、路銀をくすねられない為の知恵かな」
シィはその紙をよく見せてもらっていると、紙に印字されている紋章が見たことのあるものなのに気がついた。
「…これ」
「これかい?これは…」