竜の箱庭
神殿に続く道は、とても険しかった。
山の頂にある水源に建つという神殿は、丁度山の中腹あたりまで登るとその全容を見ることが出来た。
途中の木々は枯れてやせ細り、動物たちの姿を見かけることも少なかった。
それでも見慣れない川や山の景色に、沈みかけていたシィの心も少なからず弾んだ。
神殿は、切り立った山の斜面から流れ落ちる滝を跨ぐようにして建てられていた。
その荘厳な雰囲気は、歴史やおとぎ話に詳しくはないシィにとっても、とても言葉で言い表せないような感動を覚えさせた。
苔むした岩肌や、その隙間から顔を覗かせる名も知らない花。
たまに上空を飛んでいく小鳥たちの囀り。
そのどれもがシィにとっては新鮮で、険しい山道に不満を言う暇すらない程はしゃいだ。
工程にして三分の二程進み、そろそろシィが疲れを感じ始めた頃。
やっとセインが休憩にしようと言った。
川のほとりに並んで腰を降ろすと、村の女たちが用意してくれたお茶やお弁当を広げた。
「ごめん、少しハイペースで進んだけど大丈夫?」
「平気よ。とっても楽しい」
お茶を飲みながら上機嫌で答えるシィに、セインは安堵の表情で頷いた。
僅かな陽光にきらめく水面を見つめながら、シィは少しだけ心が和むのを感じた。
「あそこに見えるのが神殿でしょ?私も中に入っていいの?」
「…そうだね。まぁ、構わないだろう」
また含みのある言い方をする。
それでもシィは、尋ねる事はやめた。
理解出来ないことも世の中にはたくさんあるのだと、この数日でなんとなく理解した。