竜の箱庭
「あとどれくらいで着くのかしら。夜までに下に戻るのは無理ね」

「恐らく、神殿で一泊することになるだろうね。野宿は辛い?」

「平気よ」

シィは言うと、疲れた足を冷やすために靴を脱いだ。
そっと水面に足を沈めると、ひんやりとして気持ちがよかった。

「あなたも足、冷やさなくて平気なの?」

「私は旅慣れているからね。それより、辛かったらいつでも言うんだよ」

シィは大丈夫、とだけ言って水面を見つめた。
目の前にゆらゆら映っている自分の顔は、酷くやつれて見えた。
それでも笑顔を作ると、すっかり冷え切ってしまった足を水から出した。

 暫くの間休憩していると、風が冷たくなってきた。
シィにもわかるほど、その風は冷たく、湿ってきたのだ。

「雨でも降るのかしら」

「そのようだね。急ごう」

二人は頷き合うと、いそいそと荷物を纏め歩き出した。


 険しい山道を歩き、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた頃、やっと神殿の入り口に辿り着いた。

「やっと着いた…」

シィは安堵の溜息を漏らし、山肌を濡らしていく冷たい雨粒を見つめた。
下界は、雨のせいか雲のせいか、煙ってしまって見えない。

「重たい荷物はここに置いて、奥へ行こう」

セインに促され、シィは後を追った。


< 27 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop