竜の箱庭
 薄暗い神殿の内部は、古びてはいたがシィが予想していたよりも荒れてはいなかった。
セインが言うには、竜の門番たちが定期的にこうして神殿を巡り、神殿内部が荒れすぎないように見ているのだという。
実際に神殿の補修作業などを行うのは、専属の魔術師や職人たちなのだが、それも聖域から正式に使わされる人間なのだ。

「私、許可もらってないけど…」

シィが不安げに言うと、セインは暫し考えてから微笑んだ。

「まぁ、君は来訪者だから」

今一よくわからない理由でそういわれ、シィはとりあえず頷いておくことにした。
この数日、あまりにも色々な事が起こりすぎていて、シィの頭はパンクしそうだった。


 暫く朽ちかけた回廊を進んでいると、開けた場所に出た。
それは丁度、山の山頂がくりぬかれ、その中に作られたホールのようなものだった。
一番奥には巨大な祭壇のようなものがあり、山肌そのものに掘られた巨大な竜の彫像が鎮座していた。

 そのあまりの荘厳な雰囲気に、シィは思わず絶句した。
苔むした岩肌が、まるで竜の鱗のように上空から漏れ出る太陽の光を反射し輝いている。
ここに竜が棲んでいると言われれば、そうだろうと納得するだけの空気があった。

「ここが、そうなの?」

「そう-…ここが、リルテノールが鎮座する神殿の最深だ」

セインがそう言うのを待っていたかのように、ぺたり…と背後から足音が聞こえた。
シィがゆっくりと振り返ると、そこには色素の薄い肌をした、淡い水色の髪の少女が立っていた。

「え…?」

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