竜の箱庭
少女の瞳だけは深い蒼をしていて、シィは思わずその瞳に飲み込まれそうな錯覚を覚えた。
それすらも一瞬のことで、目の前の少女はシィに目もくれず、素足のままペタペタと歩いて祭壇の前に進み出た。

「お久しぶりです」

歩いていく少女の背に、セインが声を掛けた。
少女はピタリと立ち止まると、緩慢な動作で振り向いた。

 その振り向きざま、シィはしっかりと見てしまった。
少女の背に刻まれる、リルテノールを現す竜の紋章を。

「…なんだ、その娘は」

少女の唇から零れた言葉は、そんな単語だった。
澄んだ声音は空間を震わせ、シィはただ黙って二人の会話を聞いていることしかできない。

「あなたなら、おわかりではないのですか」

「いかにも…だが、今はそれよりも違う用件で参ったのだろう」

少女が目を細める。
セインは頷くと、恭しく頭を下げた。

 不思議なことに、それが合図だったかの様に、少女の身体が淡く光りだした。
まるでサナギが蝶になるかの如く-…少女の姿が一匹の美しい竜に姿を変えた。

陽光を反射する水色の鱗は、今しがた水からあがったかのように美しく煌いていて。
シィは思わずその姿に見とれた。

「リルテノール」

セインが静かにその名を呼ぶと、竜-…リルテノールは満足そうに祭壇の前にその身体を横たえた。

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