竜の箱庭
「セインよ」

リルテノールは静かに声を発した。
それは、先ほどの少女のものに違いなかったが、竜が声を発しているというより直接脳内に響いているといった感じだった。

「アークレイの神殿が破壊された。奴は今、永い眠りに落ちていることだろう」

聞いた事のない名に、シィは首を傾げて成り行きを見守った。
セインは予期していた言葉なのか、悲しげに目を伏せていた。

「この世の秩序を乱そうとしているものたちがいる。ニンゲンとは愚かなものだ。遥か古来より守られし盟約すら反故にするつもりか?」

「それを止める為に私たちがいます」

「門番よ、セインよ。お前たちは確かによくやってくれている。永きに渡る我らの嘆きと痛みを、よく癒してくれている。だが-…」

リルテノールはすっと目を細めると、セインのことをじっと見つめた。

「最早それでは間に合わぬ。私もまた、ニンゲンどもの介入を待たずしてその力を奪われるだろう。そうなれば、お隠れになったあの方も、最早この世界を守ることを諦められるだろう」

「ですが…」

「手遅れだ、セイン。既に我らの時は次の実りを待つ定め」

リルテノールの吐息が、空間を震わせた。
シィは、その会話の内容がわからないまま…ただ、何か重大な事を話しているのだろうことだけを頭にいれて立っていた。

「リルテノール、お願いがあります」

セインが不意に、竜の名を呼んだ。
リルテノールは首をもたげ、セインの瞳を覗き込んだ。

「あの方へ至る門を開く術を教えていただきたい」

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