竜の箱庭
「それは私には開けぬ門だ」

リルテノールは首を振りながら答えた。

「だが…」

リルテノールはシィに視線を移すと、その瞳を閉じた。

「サドラルならば、その術も知っていよう」

「…サドラルの神殿まで遠い。時間がないのです」

セインが珍しく焦ったように声を荒げた。

「最後まで聞け。サドラルまでの門であれば開く事は出来る。ただし」

リルテノールは言葉を切ると、ゆっくりと瞳を開いた。
その瞳には、どこか憂いを孕んでいた。

「私は眠りにつかねばならないだろう」

セインはリルテノールを見つめ、何か思案しているようだった。
シィには、何かを選び取ろうとするセインが悲しげに映り、思わず彼のローブの裾を握り締めた。

「…ありがとう」

セインは微笑むと、リルテノールに向き合い唇を引き結んだ。

「…お願いします。サドラルに会わなくては」

「よかろう。最早秩序は我らの手を離れた。足掻くのか、セインよ」

「もちろんです。それが私たち、竜の門番の務め」

その言葉に満足したのか、リルテノールは頷いた。
ふとシィに視線を流すと、ゆっくりとシィに顔を寄せる。

「娘よ、お前はこの先選択しなくてはならぬ時が来る。その時、お前がお前であることこそ必要なことだ」

どこか予言めいた言葉を残し、リルテノールの身体が激しく輝きだした。
シィは思わずその目をきつく閉じる。
焼け付くような光は、いつ収まるとも知れない。




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