竜の箱庭
陰と陽
「エルシア」
激しく揺り起こされ、シィはそこで初めて気を失っていたのだと気がついた。
身体を起こすと、そこは先ほどまで居たリルテノールの神殿とは様子が変わっていた。
物陰に横たわっていたのか、砂の舞うこの地にシィは見覚えがなかった。
「ここは…」
「サドラルの神殿の傍です。大地を司る竜の棲まう地で、エルシアの居た王国の隣の国に位置します」
セインに説明されても、シィには頷くことしかできない。
俄かには信じがたいことだが、リルテノールが最後の力を振り絞って送り届けてくれたと解釈するのが正しいだろう。
「さっきの…リルテノールは?」
「眠りについた。無理を言ったからね」
セインが悲しげにうつむく。
シィは、いつも彼がそうしてくれるように、そっとセインの頭を撫でた。
セインは驚いた様にシィを見ると、ふっと微笑んで首を横に振った。
「大丈夫。さぁ、サドラルの元へ行こう」
「ねぇ…私、よくわからないんだけど…」
今ここで聞くべきなのか悩みつつ、シィはゆっくりと切り出した。
「…なんとなく、なんだけどね。私を何故、連れ歩いてくれるの」
セインは困った様に微笑んでいた。
それは、いつも彼が聞かれて困る時に見せる笑顔なのだと、この数日でシィにはわかっていた。
「言いたくないなら、いいのよ」
シィにも説明できないことがたくさんあった。
来訪者かもしれないという事にしろ、背中のアザの理由にしろ。
セインが説明できないことを、無理に聞くつもりはなかった。
ただ、あまりにもわからないことだらけだというだけで。
「…言いたくないんじゃないんだ。ただ、確信がない」