竜の箱庭
セインはそれだけ言うと、神殿の入り口に目を向けた。
石造りの入り口が、ぽっかりと荒地の真ん中にあった。
周りには目立った建物や森なんかもなく、とても大地の加護とは無縁の地形。
これも、セインが言うような「竜の力が弱まっている」証なのだとしたら。
シィは背中が寒くなるのを感じた。

「…もし、確信がもてたら…教えてほしいな」

シィは微笑むと、セインの言葉を待たずに歩き出した。
シィには予感がしていた。
リルテノールは言っていた。

選ばなくてはいけないときがくる。

その言葉が何を意味するのかはわからないが、シィはきっと、何かを決めなくてはならない。
そして、その理由はこの旅にあるはずなのだ。



 神殿の入り口をくぐると、中は薄暗く埃っぽかった。
リルテノールの神殿が美しかったのとは対照的に、まるでここには長い時間人が訪れていないかのような。

 無言で回廊を進むと、それでも奥のほうに行くに従って段々と整頓はされているようだった。
入り口は単に表の砂や埃が舞い込んでのことなのだと、シィは納得した。

 尚も進んでいくと、リルテノールの神殿の様に開けたホールのようなところに出た。
ただ違うのは、太陽の光が届くわけでもなく。
薄暗い不思議な色の炎に照らされている暗いホールだった。

カビくさい臭いにシィが顔を顰めて暗闇に目を凝らすと、その中心に一人の老人が立っているのが見えた。

「おじいさん?」

こんなところで何をしているのかと首を傾げると、老人は人のよさそうな顔で微笑んだ。

「リルテノールも、眠ってしまったか」

その言葉に、シィはこの老人がサドラルなのだと直感で悟った。

「セインよ、何故その少女を連れてきた」

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