竜の箱庭
王都ルーネルを守護する正規の騎士団の紋章だった。
雄雄しく翼を広げた竜は、まさしく自国を護るリルテノールの姿を模ったものだった。


「追いつけてよかったですよ」

 回廊の向こうから、声が響いた。
そこから姿を現したのは、白銀の鎧を見に着けた、長身の男だった。
セインも背が低いほうではないが、そのセインよりも頭一つ分は背が高い。

緩やかに波打つ、鎧と同じ銀色の長髪を、優雅に後ろで一本に縛っている。
涼やかな表情は、年頃の娘達が見れば思わず見とれてしまうような美しさだったが、その瞳は氷の様に凍てついたブルーだった。

「アイデン」

セインが小さく呟く。

「陛下はお怒りですよ、セイン。如何に竜の門番といえど、陛下の勅命を無視し、来訪者を匿うなど」

「……!」

シィは思わず震え上がりそうになるのを堪えながら、僅かに後ずさった。
思い出されるのは、故郷でのあの惨劇。
目の前で、セインまでもがまた危険な目にあってしまうのではという恐怖が、シィの心に深く圧し掛かる。

「丁度良かった。何故陛下がそこまで…いや、陛下だけではない、各国の王族たちがこうまでも来訪者を求めるのか、私も聞いてみたかったところだよ」

セインがそう言うと、アイデンは笑顔のまま首を傾げた。

「我々には、それに答えてやるだけの解答は持ち合わせてはいないんですよ、セイン。お前は竜と対話出来る貴重な存在。特別に重罪は目を瞑って差し上げてもいい。ただ、こちらのお嬢さんはどうしましょうね」

アイデンが言うと、回廊の置くからくぐもった悲鳴と金属が擦れ合う音が聞こえてきた。

 奥から現れたのは、忘れるはずもない-…シィの身代わりとなった少女、ネリーだった。
美しかった金髪は、無理に引き立てられてきたせいなのかバサバサになっていた。
見につけている衣服も無残なもので、兵士たちの慰み者にでもあったのか、所々血が滲んだ肌、擦り傷…腕に嵌められた金属の手枷が食い込み、赤黒く腫れあがっていた。

「ネリー…!」

思わず声をあげると、ネリーの肩がびくりと震えた。
それまで下を向いていたネリーが、初めてシィの顔を見つめる。

「える…しあ?」

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