竜の箱庭
ルードが隣の村に出かけていってからも、特に日常に変化はなかった。
いつも通りの毎日をこなしているうちに、週末がやってきた。
ピクニックよろしくお弁当を各自用意して、シィと友人のネリー、それに何人かの女友達で村はずれにある川へ来ていた。
幸いにして天気は晴れて、はしたなく下着姿ではしゃぐ友人たちを眺めながら、シィも笑顔だった。
こうして村の外へ出られることは、あまりない。
結婚して家庭をもてば、もっとその機会は減ってしまうだろう。
シィは川へ入れなくても、十分この状況を楽しんでいた。
「エルシアー!気持ちいいよー。あなたもいらっしゃいよ」
「でも、母さんが…」
「ちゃんと拭けば大丈夫よー」
何人かの友達にそういわれ、シィも少しならいいか…という気持ちになってきてしまった。
木陰で洋服を脱いで下着姿になると、遠慮がちに川に足をひたす。
ひんやりとした水の感触に、思わず身震いする。
「冷たい」
「気持ちいいでしょ」
「そうね」
友人たちと喋っているうちに、水の冷たさも忘れてはしゃぎはじめる。
そうしているうちに、ネリーがあっと声をあげた。
「シィ、あなた…それ…」
驚きを隠そうともしないネリーの声に、シィは何事かと首をかしげる。
「え?」
「あなた…来訪者…なの?」
聞きなれない言葉に、シィは益々首を傾げた。
ただ、聞きなれないのはシィだけなようで、周りに居た友人達も驚いた様にシィの背中を凝視している。
「ね、ねぇ…私の背中が何?」
「何…って、そのアザよ!」
ネリーは恐ろしいものでも見るように、シィの背中を指差した。