竜の箱庭




 ルードが隣の村に出かけていってからも、特に日常に変化はなかった。
いつも通りの毎日をこなしているうちに、週末がやってきた。

ピクニックよろしくお弁当を各自用意して、シィと友人のネリー、それに何人かの女友達で村はずれにある川へ来ていた。

幸いにして天気は晴れて、はしたなく下着姿ではしゃぐ友人たちを眺めながら、シィも笑顔だった。

 こうして村の外へ出られることは、あまりない。
結婚して家庭をもてば、もっとその機会は減ってしまうだろう。

シィは川へ入れなくても、十分この状況を楽しんでいた。

「エルシアー!気持ちいいよー。あなたもいらっしゃいよ」

「でも、母さんが…」

「ちゃんと拭けば大丈夫よー」

何人かの友達にそういわれ、シィも少しならいいか…という気持ちになってきてしまった。
木陰で洋服を脱いで下着姿になると、遠慮がちに川に足をひたす。

ひんやりとした水の感触に、思わず身震いする。

「冷たい」

「気持ちいいでしょ」

「そうね」

友人たちと喋っているうちに、水の冷たさも忘れてはしゃぎはじめる。
そうしているうちに、ネリーがあっと声をあげた。

「シィ、あなた…それ…」

驚きを隠そうともしないネリーの声に、シィは何事かと首をかしげる。

「え?」

「あなた…来訪者…なの?」

聞きなれない言葉に、シィは益々首を傾げた。
ただ、聞きなれないのはシィだけなようで、周りに居た友人達も驚いた様にシィの背中を凝視している。

「ね、ねぇ…私の背中が何?」

「何…って、そのアザよ!」

ネリーは恐ろしいものでも見るように、シィの背中を指差した。
< 6 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop