オオカミ系幼なじみと同居中。
グツグツとお鍋からはおいしそうな音と匂い。
要特製のビーフシチュー。
でも、今まで香っていた「いい匂い」はいつの間にかあたしの鼻には何も届いていない。
あたしの全神経は、目の前であたしを見つめる要に集中しきっている。
サラサラで、無造作にセットされた黒髪。
長めの前髪の間から覗く、少し茶色がかった瞳。
今にもその中に吸い込まれそう。
ドクン―・・・
ドクン――・・・・・
要とただ目が合ってると言うだけなのにあたしは、まるでキスされてるくらい胸が高鳴ってる。
感じてしまってる。
緊張で唇が小刻みに震えだす。
要はそんなあたしをただじっと見つめている。
1分が永遠に感じた瞬間――・・・
あたしは息さえ出来ずにいた。
「・・・・・・・」
「・・・・・」
ねえ、要・・・・
あたし、キスしたい。
――――今すぐ。
「・・・・・・・・・・・あ、もう鍋の火止めて。」
「・・・・え?・・・・ああ、うん」
あたしのそんな想いに気づいてか、気づいていないのか、要は不意に視線の呪縛からあたしを解放した。
それから要は再び包丁を握った。
あたしは、コンロのガスを止めながら唇をキュッと結んだ。
こうしていないと涙が溢れてしまいそうだった。
その後、要は何かを考えるように黙ったままで。
なにも言わなかったけど、それが要がさっきのあたしと旬のやり取りを見ていたと言う事だと思った。
まだ、責められた方が楽だよ・・・
心臓が潰れちゃいそう・・・
おいしそうなシチューの味は、苦くてただあたしの舌を滑っていくだけだった。