オオカミ系幼なじみと同居中。
未央だけじゃない。
もう一人いる。
「…………」
二人は親密な様子で見つめあったまま動かない。
まるで、二人のまわりだけ時間が止まっているかのようだ。
低くて真っ黒な雲。
その雲は我先にとその流れを速めている。
遠くに見えるのはまだ明るい空。
その隙間から、光の筋がいくつも延びている。
不思議だった。
その様子を、なぜか俺は固唾をのんで見守っている。
前にも後ろにも進めず、そこから二人を眺める俺は、まるで映画館にいる一人の観客のようだ。
……ポツ
ふいに鼻の頭に何か落ちてきた。
我に返り、ふと空を仰ぐ。
ポツ……ポツ…………
とうとう降り出したんだ。
さらに雨脚を速めようとしている雲から、二人に視線を戻す。
……だけど。
俺が視線を落とした瞬間、未央はその男に手を引かれ走り去って行った。
「……ふぅん」
なーるほど。
……そうゆう事か。
わざわざ来るまでもなかったわけか。
……つーか、俺は何してんだ?
俺は手に持っていた傘を、ギュっと握り絞めた。
そして、二人が走って行った方に背を向けて歩き出す。
雨は冷たく俺の体に、容赦なく打ち付けてた。
足が重い……まるで鉛でもくっつけているみたいだ。
ぬかるんだ地面には、すでに大きな水溜りが出来ている。
その濁った水の中に、季節はずれの桜の花びらが浮いている。
激しくなる雨の雫に打たれては、浮き沈みするピンク色の小さな欠片。
俺はその花びらをすくい上げると、あの日の記憶が甦る。
「……ったく。 薄情な女」