黒姫
再び那央の手が透の頭を撫でる。
やや長い黒髪を梳くような手を、何故か今度は振り払えなかった。
「……兄さん」
「何?」
「……いや、なんでもない」
悔しいけど、完敗だ。
人生経験云々はあながち間違いではないのかもしれない。
早く大人にならなくては、と焦る反面、まだ子供でいたい、と心のどこかが悲鳴を上げる。
それを見透かされた気がして、やはり那央は“兄”なのだと、何となく思った。
「透。瑞姫を頼むな」
「……ああ、わかってる」