黒姫

ギリ、と噛んだ唇から、鉄の味がする。
ちくりと痛んだはずのそこは、今ばかりは全く痛くなかった。

ああ、痛い。痛い。
身体が軋む、音がした気がする。


遠くで笑い声がする。
酷く醜い笑い声は、瑞姫の記憶にあるものと少し、似ていて。

鉄の味が、濃くなった気がした。


いつの間にか上から降って来るのは雪玉ではなくなっていて、まだ素手なだけマシなのだと、麻痺しはじめた頭が思う。

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